いじめのきっかけは、ささいなことかもしれない。とりわけ小さい子のいじめ、というより最初は単なるからかいや、ちょっかいに過ぎないのかもしれないが、それが、いつしか執拗なものに変化してしまうのだ。なぜそうなるのかは、いじめられる本人の反応によるところが多いのだと思うが、往々にして、反応が弱かったり、過剰だったりすることが多いのではないかと思う。そして、共通すると思われるのは、嫌だという意思表示が弱いということだ。大人でも、たとえばパワハラなどを受けやすい人、いわゆる「いじられタイプ」には、こういう人が多いような気がする。どちらかといえば、自分に抑圧的で、そういう性格を自ら肯定している場合が多いのではないかと思う。自分自身を考えても、昔はそういう感じだった。
いじめる側にしても、いや最初は単なるおもしろ半分のちょっかいのつもりが、反応が弱かったり、ちょっと普通と違ったりしていると、さらに強いアクションに変化していくきっかけになる。私の場合も、「嫌だ」とか「やめて」という言葉を発した記憶があまりない。それを発したのは、いじめがかなりエスカレートした後である。子供の場合は、むしろ残酷だ。加減を知らないから、どんどんエスカレートする。とりわけ、友達が少ないなど、味方のいない孤立した子供は、ある意味で袋だたきにあってしまうこともある。親や教師は、まず子供がクラスという集団の中で孤立していないかどうかに最大限の注意をはらうべきだろう。いじめがエスカレートしてからでは、対応は困難だ。最初のうちに、こうしたつきあい下手な子供たちに、身のかわしかたや友達の作り方を教えていく必要がある。自分自身の体験をひとつ紹介しておこう。小学校5年の頃だったと思うが、ある日、クラスのガキ大将に声をかけられた。「お前、友達がいなくて寂しいだろう。俺が友達になってやる。他の奴らが帰り道で待ち伏せしてるといけないから、俺が守ってやる。」と言って私を学校の裏やら、あちこちを隠れるように連れ回した。私は、おそるおそるだが、それを信じてついていった。しかし、その先に待ち受けていたのは、数人の悪ガキたちだった。つまりはだまし討ちである。逃げ足だけは速かったので、なんとか逃げおおせたが、キモを冷やしたのと同時に、もう誰も信用したくなくなった。これは、悲しい記憶のひとつだ。
中学あたりまで来ると、今度はちょっと様相が変わる。いわゆる「いじられキャラ」が定着すると同時に、不良タイプの生徒の標的にされはじめる。中学生にもなれば、かなり悪い連中も増えてくる。今回の大津の例も、こうした連中にからまれてしまったということなのだろう。手口も極めて陰湿になるし、表には見えにくくなる。今回の事件でも、いじめと喧嘩の区別ができなかったという話だが、だいたい喧嘩騒ぎとして扱われてしまい、「集団暴行」の事実は隠蔽されてしまう。学校や教師にとっても暴力沙汰は責任問題に繋がるから、問題を大きくしたくないという心理が必ず働く。これが、逆に不良生徒にとっては狙い目なのだ。要するに教師や学校は彼らにナメ切られているのである。一度、このタイプに目をつけられると、簡単には逃げられない。中学3年の春くらいまでは、成績ビリクラスだった私が、無理を承知で地域一の進学校を受験したのも、そういう連中から逃げたいというのが最大の理由だったわけだ。私の場合は、幸いにも半年ほどの勉強でどうにかそのレベルまで行くことができ、かろうじて合格できたが、これだけがんばれた理由は、ある意味で命がけだったからにちがいない。
いじめや暴行の事実をなぜ、本人が申告しないのか、それには複数の理由がからんでいると思う。チクったことで、またいじめがエスカレートする可能性が最も大きな理由である。そもそも生徒たちは教師の目が十分に行き届いていないことを知っている。実際、下校途中に待ち伏せでもされたらアウトである。だから、教師に言ったところで、何の助けにもならないと思い込んでいることが多い。また、言った結果、教師がどういう反応を示すか、どういう行動に出るかが不安だという点もある。これは、生徒と教師との間の信頼関係の希薄化ということだろう。親に対しても同様である。特に親が世間体を気にするタイプの場合はなおさらだ。また、友人たちに対しては、あまりそういうことは知られたくない。これらが重なって、いじめの事実をひた隠しにしてしまうことも多いのだろう。
こういう流れを考えると、いじめの芽は、早期に摘んでおく必要がある。もし、手遅れになったら、思い切って環境を変えるしかない。ただ、これを自分でできる子は少ないだろう。しかし、引っ越して子供を転校させられる親はどれくらいいるだろうか、と考えるとそれもなかなか難しい。同じ地域内での転校では、特に不良グループなどがからんでしまうと効果が無いかもしれないからだ。地域ぐるみで、そういう子供を、自分で環境を変えられる、たとえば大学進学まで保護できるしくみはできないものだろうかと思うが、これも親の世間体とかがからんで簡単ではないだろう。このあたりは、今回の事件をきっかけに、大津市の委員会などでも議論して欲しいところだ。
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