米国帰りで、1週間の出社自粛中。風邪は、かなりよくなって、もう咳もほとんどでなくなってきました。新型インフルエンザは、世界的に落ち着きつつあるものの、これから冬に向かうオーストラリアで感染が拡大中とのことで、今後の推移がちょっと心配です。
先の日記で少し所感を書いたのですが、今朝、26日のWHO会見の議事録を読んでいて、また少し思うところがあったので書いてみます。ちなみに、WHOの定例プレスコンファレンスは今週から週1回、毎週火曜日午後5時(ジュネーブの現地時間)になってます。
WHOは引き続きパンデミック警戒フェーズを5に据え置いたままで、現状では上げる予定はないとの立場です。このフェーズの基準については機械的な適用には各国から慎重な意見が出され、WHOとしても基準の再検討を余儀なくされているようですが、メディアからは、この点についても、かなりの突っ込みがあります。フェーズの意味については、「地域的な広がりについてのものであり、病状の重さとは関係ない」と重ねて言いながら、現実にはフェーズ6適用に対しては極めて慎重な態度をとり続けるWHOに対して、政治的な圧力に屈しているのではないか、とか、ゲームの途中でルールを変えるようなもので、混乱を招く、といった批判も飛び出しています。これに対してフクダ氏は、難しい問題があることは認めつつ、もっとも重要なことは、(各国が)すべきことができているかどうかであり、それは現在すべて出来ていると思うと述べ、フェーズを上げることによるパニックや過度の「禁欲主義=cynicism」をひきおこす危険をも考える必要があるとしています。フクダ氏によればフェーズの定義は、パンデミックへの対応ガイドラインとペアで作られており、最初のバージョンは数年前に策定されたが、当時は重症度なども含めた多くのパラメーターを含むものだったため、各国から複雑すぎるとの意見が多く出され、2005年により単純化されたものを出したとのこと。しかし、もともと(致死性のきわめて高い)鳥インフルエンザのパンデミックを前提に作られたものであったため、各国がフェーズに応じて定めた対策が、実際の流行の深刻さと釣り合わないという問題も出ているため、再度の見直しは必至のようです。
しかし、ウイルスの毒性の強弱や感染力の強弱は言えても、それがどの程度の人に広がり、そのうちどの程度が重症化するかという、実際に社会自体に与えるインパクト(リスク)は、その国や地域の環境や体制、その他様々な要素がからみます。つまり、「脅威」の大きさは一般的に議論ができても、それによって生じるリスクについては、地域によってその状況(耐性、脆弱性・・・などなど)が異なるため、各地域(国)ごとに判断するしかありません。また、対応策についても一般的な推奨策(ベストプラクティス)は提示できても、それをどのように実施、実装するか(特に何に重点を置くかや、対策の取捨選択)は、個々の地域の実態に合わせて行わなければ意味がありません。ここでいう「脅威の強さ」と「リスク」の違いや「ベストプラクティス」の意味についての食い違いが、フェーズの議論に影をおとしていることは間違いなさそうです。本来WHOは、「脅威の強さ」と「対応策のひな型=ベストプラクティス」を提示して、その先を各国に預けたかったのだと思いますが、こうした純粋に科学的な意図と各国の(政治も絡んだ)対応の間のギャップに苦しんだというのが実際のように思えます。
もうおわかりかと思いますが、これは我が国の情報セキュリティの現状とよく似ていますね。たとえば脆弱性やマルウエアの脅威レベルを標準化しようという動きはありますし、ISMSの管理策のようなベストプラクティスも多く存在します。しかし、これを役立てるためには、結局は個々の組織が常に自己の状況を掌握しつつ、適切な対応を組み立てていく必要があります。情報セキュリティもパンデミックへの対応もリスク管理という意味では同じ大きなフレームワークで扱えるものだと思いますから、こうした対比をしてみることは意味がありそうですね。
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